海上保安レポート 2022

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 守り抜く、日本の海。


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

7 海をつなぐ > CHAPTER I. 各国海上保安機関との連携・協力
7 海をつなぐ
CHAPTER I. 各国海上保安機関との連携・協力

犯罪は国際犯罪組織が関与するものも発生し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、一つの国が管轄権を行使できる海域には制約があります。

海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものが多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、さまざまな分野で連携・協力を図っています。

多国間での連携・協力
1 世界海上保安機関長官級会合(Coast Guard Global Summit)

近年、地球規模の自然環境や社会環境の変化により、海洋においても、大規模な自然災害による被害や、薬物犯罪等国境を越える犯罪の脅威が拡大しています。このような地球規模の課題が拡がる中、平和で豊かな海を次世代に継承していくためには、平和と治安の安定機能としての役割を担う海上保安機関が世界的に連携し協力することが強く求められるようになりました。

海上保安庁では、法の支配に基づく海洋秩序の維持等の基本的な価値観を共有し、世界の海上保安機関が力を結集してこれらの課題に取り組むため、平成29年から世界各国の海上保安機関等のトップが一堂に会する「世界海上保安機関長官級会合」を日本財団と共催しています。

令和元年に東京において開催された「第2回世界海上保安機関長官級会合」では、世界各国の海上保安機関が、“the first responders and front-line actors”(海上で「最初に」「最前線で」活動する機関)として共通する行動理念の理解を深め、全世界の海上保安能力を向上させるため、「地球規模の課題に対応するための人材育成に向けた取組への着手」、「先進的な成功事例等の情報を共有する手法に関する検討の実施」等について合意しました。

令和3年11月には、史上最多となる、世界から計98の海上保安機関等(88か国及び10の国際組織)の実務者の参加を得て、「第2回世界海上保安機関実務者会合」を初めてオンラインで開催しました。この会合では、「第2回世界海上保安機関長官級会合」での合意事項を受けて、「会合運営ガイドライン」、「先進的な取組」、「海上保安国際人材育成」、「情報共有手法」の4つの議題について議論しました。その結果、今後の会合はオンラインと対面を併用したハイブリッド形式での会議の開催を可能とすることやオンライン等を活用した海上保安分野のグローバルな人材育成プログラムを継続実施していくこと、さらに、各国の先進的取組を共有するためのウェブサイトを運用していくことなどについて、実務者間で合意しました。

また、この実務者会合で得られた結果をより高いレベルで確認し、実現していくために「第3回世界海上保安機関長官級会合」を令和4年に東京で開催する予定となっています。

第2回世界海上保安機関実務者会合の様子-1
第2回世界海上保安機関長官級会合の様子-2

第2回世界海上保安機関長官級会合の様子

2 北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF)

北太平洋海上保安フォーラムは、北太平洋地域の6か国(日本、カナダ、中国、韓国、ロシア、米国)の海上保安機関の代表が一堂に会し、北太平洋の海上の安全・セキュリティの確保、海洋環境の保全等を目的とした各国間の連携・協力について協議する多国間の枠組であり、海上保安庁の提唱により、平成12年から開催されています。

このフォーラムの枠組の下、参加6か国の海上保安機関は、北太平洋の公海における違法操業の取締りを目的とした漁業監視共同パトロールや、現場レベルでの連携をより実践的なものとするための多国間多目的訓練(MMEX)等を行っています。また、今後の連携・協力の方向性やこれまでの活動の成果について議論するため、例年、長官級会合(サミット)と、実務者による専門家会合を開催しています。

令和3年9月には、長官級会合がオンライン形式で開催され、参加6カ国が連携して実施する取組及び今後の活動の方向性について議論が行われたほか、海上での犯罪取締り等に関する情報交換も行われ、北太平洋の治安の維持と安全の確保における多国間での連携・協力の推進が確認されました。また、10月にはオンライン形式にてカナダが主催し、非正規移民来航への対応をテーマとした多国間多目的訓練に参加しました。

令和3年北太平洋海上保安フォーラムサミット(オンライン形式)の様子

令和3年北太平洋海上保安フォーラムサミット(オンライン形式)の様子

3 アジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)

アジア海上保安機関長官級会合は、海上保安機関の長官級が一堂に会して、アジアでの海上保安業務に関する地域的な連携強化を図ることを目的とした多国間の枠組であり、海上保安庁の提唱により、平成16年から開催されています。

令和3年12月には、長官級会合がオンライン形式で開催され、新たにフランスの参加等について合意がなされました。よって、参加国等は22か国・1地域・1機関となりました。また同月から情報共有のプラットフォームとなるHACGAMウェブサイトの正式運用が始まりました。海上保安庁は、アジア地域の諸外国海上保安機関と、ウェブサイトを通じて地域的な連携強化に取り組みます。

令和3年アジア海上保安機関長官級会合(オンライン形式)の様子

令和3年アジア海上保安機関長官級会合(オンライン形式)の様子

各国大使等による表敬訪問〜ますます注目を浴びる海上保安庁の国際業務〜

近年、海上保安庁では、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、さまざまな取組を行っており、外交の視点からも各国から大きな期待を集めております。

このような中、令和3年度には多くの国の大使等が、 海上保安庁長官を表敬訪問しました。表敬訪問では、それぞれの大使と友好的な雰囲気の中、さまざまな意見交換をするとともに、各国海上保安機関間の連携・協力について確認しました。

5月 在京トルコ大使館ギュンゲン大使による長官表敬

5月 在京トルコ大使館ギュンゲン大使による長官表敬

6月 太平洋艦隊司令官パパロ大将による長官表敬

6月 太平洋艦隊司令官パパロ大将による長官表敬

7月 在京インド大使館ヴァルマ大使による長官表敬

7月 在京インド大使館ヴァルマ大使による長官表敬

10月 在京フランス大使館セトン大使による長官表敬

10月 在京フランス大使館セトン大使による長官表敬

11月 在京米国大使館グリーン臨時代理大使による長官表敬

11月 在京米国大使館グリーン臨時代理大使による長官表敬

12月 在京ジブチ共和国大使館ビレ大使による長官表敬

12月 在京ジブチ共和国大使館ビレ大使による長官表敬

※撮影のためマスクを外している写真があります。

二国間での連携・協力
1 アメリカ

海上保安庁は米国沿岸警備隊(USCG)を模範として設立、平成22年には「海上保安庁とUSCGとの間の覚書」を署名・交換しました。同覚書に基づき、巡視船艇の相互訪問等の職員交流並びに情報共有・交換を実施しています。

令和3年にあっては、法執行訓練(外国漁船取締り訓練、不審外国船舶追跡捕捉訓練等)や情報伝達訓練等を計5回実施しました。

海上保安庁は、世界の海上保安機関の連携協力を主導しており、インド太平洋地域の外国海上保安機関に対して海上犯罪の取締り等に必要な能力向上支援にも取り組んでおります。日米海上保安機関合同訓練を通じて、両機関の海上法執行の手法や手続に関する相互理解を深め、互いの能力を向上させるとともに、この実績を積み重ね、外国海上保安機関への能力向上支援等にも反映させていくこととしています。

令和3年 米国沿岸警備隊との合同訓練(於:東京湾)

令和3年 米国沿岸警備隊との合同訓練(於:東京湾)

令和4年 海上保安監と米国沿岸警備隊太平洋方面司令官とのオンライン会合

令和4年 海上保安監と米国沿岸警備隊太平洋方面司令官とのオンライン会合

2 韓国

海上保安庁と韓国海洋警察庁は、海域を接する両国間における海上の秩序の維持を図り、幅広い分野での相互理解・業務協力を推進するため、平成11年からこれまでに合計18回、日韓海上保安当局間長官級協議を開催しています。

令和3年6月には、第八管区海上保安本部と東海地方海洋警察庁が、10月には第七管区海上保安本部と南海地方海洋警察庁が双方の船艇・航空機を用いた日韓合同捜索救助訓練を実施しました。

3 ロシア

海上保安庁とロシア連邦保安庁国境警備局は、海上での密輸・密航等の不法活動の取締り等に関する相互協力のため、平成12年に締結した「日本国海上保安庁とロシア連邦国境警備庁(現ロシア連邦保安庁国境警備局)との間の協力の発展の基盤に関する覚書」に基づき、これまで原則年1回の長官級会合のほか、日露合同訓練等を実施し、協力関係の推進を図っています。

令和3年度は新型コロナウイルス感染症の影響により両機関の対面での交流はできませんでしたが、オンラインにて日露専門家会合を実施するなど、継続して連携・協力を行っています。

4 インド

海上保安庁とインド沿岸警備隊は、平成11年に発生した、「アロンドラ・レインボー」号(日本人船長・機関長が乗船)がマラッカ海峡で海賊に襲われた事件で、インド沿岸警備隊が海軍と連携して海賊を確保したことを契機に、平成12年以降、定期的に、長官級会合や連携訓練を実施しており、平成18年に「海上保安庁とインド沿岸警備隊との間の協力に関する覚書」を締結し、連携協力関係の強化を継続しています。

令和3年6月には、機動防除隊及び海上保安試験研究センターの職員が、インド沿岸警備隊の環境防災分野の専門家に対し、それぞれ有害・危険物質(HNS)への対応、油の鑑定・分析に関する研修をオンラインで実施しました。

また、日印海上保安機関の両長官による会談を、8月には電話、12月にはオンライン形式にて実施、今後の日印海上保安機関同士の連携協力関係の強化を確認しました。

令和3年 海上保安庁長官とインド沿岸警備隊長官によるオンライン形式の会合

令和3年 海上保安庁長官とインド沿岸警備隊長官によるオンライン形式の会合

令和3年 有害・危険物質(HNS)への対応、油の鑑定・分析に関する研修

令和3年 有害・危険物質(HNS)への対応、油の鑑定・分析に関する研修

5 べトナム

平成27年9月、海上保安庁とベトナム海上警察(VCG)は、海上法執行機関として、安全で開かれ安定した海を維持することが両国の繁栄に寄与するとの価値観を共有し、海上保安分野に係る人材育成、情報の共有と交換の維持などについて覚書を締結しました。

令和3年12月には、VCGとの間でオンライン形式による実務者会合を開催し、海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT)による研修をはじめとする、VCGに対する今後の支援の方向性について合意しました。

ベトナム海上警察 実務者会合

ベトナム海上警察 実務者会合

6 インドネシア

令和元年、海上保安庁とインドネシア海上保安機構(BAKAMLA)は、海上安全に係る能力向上、情報共有、定期的な会合の開催等に関し、両機関の連携強化を目的とした長官級の協力覚書に署名しました。

令和3年11月には、BAKAMLAとの間でオンライン形式による年次会合を開催し、今後の支援の方向性について合意しました。

令和3年 日尼年次会合(オンライン)

令和3年 日尼年次会合(オンライン)

7 フィリピン

平成29年1月、海上保安庁とフィリピン沿岸警備隊(PCG)は、海上保安に関する人材育成、情報交換など、協力を行う分野を明確化し、両機関の更なる協力・連携関係の強化を目的とした長官級の協力覚書を締結しました。

令和3年7月及び11月には、オンラインにてPCGにODAの枠組で供与予定の97m型巡視船進水式に参加し、7月の進水式には海上保安庁次長が参加しました。

令和3年 フィリピン沿岸警備隊に供与予定の97m巡視船進水式の様子(オンライン)

令和3年 フィリピン沿岸警備隊に供与予定の97m巡視船進水式の様子(オンライン)

8 フランス

令和元年9月、日本とフランスは、第1回日仏包括的海洋対話を開催し、海上保安庁とフランス海洋総局間で海洋情報の共有に関する政府間取決めを作成し、それに基づく情報交換を開始するための検討を行うこと等が決定されました。

令和3年7月には、海上保安庁とフランス海洋総局との間で、海洋状況把握(MDA)を含む海洋安全保障分野における情報共有を推進する更なる協力のためのロードマップに署名しました。

フランス海洋総局とのオンライン会合

フランス海洋総局とのオンライン会合

国際緊急援助活動について

我が国は、海外の地域、特に開発途上にある海外の地域において、大規模な災害が発生した場合、被災国政府または国際機関の要請に応じ、救助や災害復旧等の活動を行う国際緊急援助隊を派遣しており、海上保安庁の職員も国際緊急援助隊の一員として派遣され、多くの災害事案等に対応しているほか、必要な訓練を実施しています。

国際緊急援助隊救助チームの活動(平成29年 メキシコにおける地震災害対応) JICA提供

国際緊急援助隊救助チームの活動
(平成29年 メキシコにおける地震災害対応) JICA提供

今後の取組

海上保安庁は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持・強化のため、二国間・多国間会合や合同訓練等を通じ、各国の海上保安機関との連携・協力を推進していきます。